2010年2月12日金曜日

水と食糧の問題で考えた


先日、水と食糧をテーマにした社内の勉強会に参加してきた。
講師は佐久間智子さん。

人間が生きていくうえで欠かせない水資源と食糧生産に、世界的な視野で
みた場合に、どのような問題があるのかという視点での話しになった。


【水】
 ・良質な水の減少
   工業・生活排水で汚染。農業生産での汚染が深刻。
   水に溶け出す抗生物質の7割超は畜産が原因。
   水の循環のうち、25%超を人類の活動で使用
   「森は水資源の肺、沼・湿地は水資源の腎臓」
   それが失われつつある。
 ・気候変動、砂漠化
   都市化の進展で陸での蒸発量・保水量が減少。
   それで水循環が狂い、内陸部の砂漠化が加速
 ・水へのアクセスの不平等
   水資源の偏在(カナダ、ロシア、ブラジルに注目集まる)
   貧困から上下水道のインフラ整備ができない。
   →水の商品化 例:水利権を売買可能にしたオーストラリア

 解決策としての論争
  企業アジェンダ:水源開発、水の移動、海水淡水化(新技術)、民営化
  市民アジェンダ:節水、水源涵養、廉価な貯水、浄水技術の普及、
          貧困撲滅

 水利用の実態
  1900年から2000年までに人口3倍、水使用7倍
  そのうち、農業利用70%、工業20%、のこりが生活用水

 食料生産と水
  1kgの生産当たりトウモロコシ水1900L、米3600Lの水。
  鶏肉1kgは穀物3~4kgと水4500L、
  牛肉1kgは穀物7~11kgと水20000Lを使う。
  穀物生産だけなら、全人類を十二分に満たすだけの
  量が得られる。
  しかし、畜産飼料やバイオエタノールとして使われる
  ことから、先進国と途上国の1人あたりの穀物消費量に
  2~3倍の差が出ている。
  世界の食肉消費、一人当たりの年間食肉消費量kg
  アメリカ121、EU86、中国60(急伸!)、日本46、インド5

 集中しすぎる都市のあり方そのものの見直しが必要ではないか。
 我々は、どんな水資源に頼っているか?
 その水資源が、自然な状態で何人を養えるか?
 都市を分散化させること、
 水を使いすぎない生活の方法を考えること、
 自然の保水力を活用することが、必要だ。


【質疑】
 Q
  農業の節水とは具体的に何があるのか?
  海水淡水化の具体的な問題は?
 A
  農業の節水は、スポットで給水する方式。
  全面に散水するとほとんど蒸発するので、
  国連などでも推奨している。また、ハイブリッド種子など、
  その気候に適した作物を使用せず、乾燥に弱い作物(商品作物)を
  栽培している問題などがある。

  海水を淡水化することに、多量のエネルギーが必要(温暖化要因)
  そして設備から排水される汚水により、海水の濃縮(有害物質含め)と
  イオンバランスの崩れを危惧する。
  この話を聞いた膜メーカの人が激怒した。潜ってみたのか?と。

 Q
  水汚染源として農業の問題とは?
 A
  農薬、化学肥料の水域への流出。し尿を畑にまいている。
  化石燃料も多く使用する。

 Q
  国際化、アジアの水問題とは?
 A
  民営化が問題。特にもともとイギリスの水企業だったテムズウォータが
  ずさんな管理と本社社員の高給、株主配当などで料金を上げている。
  アジアでは、もともと不法使用への対応や使用権利の関係、旧式な設備
  での浄水といった難しさがあって、事情を知る現地の公務員のほうが、
  よく理解してやっていたが、外資に変えためそのノウハウが失われた。

 Q
  穴を掘るなど、簡易な水涵養の手法を説明されたが、農業の水使用と
  何が違うのか?
 A
  穴を掘って、雨水などをためるのは、まず、蒸発の量が違う。
  必要な時に、飲料ができ、また、地下水涵養にもなる。

 Q
  浄水場の急速ろ過がだめで緩速ろ過がいいとおっしゃっているが
  難分解性有機物の処理、流量調整、維持管理のノウハウの点で、
  すべての現場に置き換えて使用することはできないと思いますが。
 A
  (都をはじめとする)水道事業の専門家から話をもっと聞く必要が
  あると思う。
  ただし、欧米で緩速ろ過の事例を多数見ており、可能だと思う。
  専門技術にかかわる厳しい質問で、明確はお答えはなかった。

 Q
  水道は民営化が駄目との指摘だが、電気やガスは民間企業だ。
 A
  日本の公営企業のスタンスと、米国の送電事業者のスタンスの違い
  を話してくれたものの、この辺も明確はお答えはなかった。
  日本は、企業人としては商道徳を守る人が多いが、市民運動は弱い。
  欧米では、企業人は利益追求が至上命題で、そのカウンターとして
  市民運動が発達している、との指摘は興味深かった。


【食料】
  「食べ方」を変えることにインパクトがある。
  農業・畜産の温暖化への影響は大きく、自動車交通を半分に
  するよりも、肉食を半分にするほうが効果がある

  天水でできなくなった農業
  自然のキャパシティにあった農と食を考える必要がある。

  大規模な商品作物(遠くに輸出する農業)栽培と、
  途上国支援が結びついている。
  この構造を解きほぐすのが難しい。
  そのため、貧困解消→インフラ整備と教育の充実→良質な農業
  の循環に持っていきづらい。

  都市部の貧困がスラムを作る。
  スラムは土地使用の法的な根拠なく、そのため(不法占有状態の
  土地に対して)公共はインフラ整備を行わない。
  スラムを強権的に排除することがスタートになるが、
  そのときに貧民をどうするか?

  穀物生産が重要。
  地上の農地は、全人口で割ると約2反(20a)の広さがあり、
  そこで一人当たり300kgもの穀物が作れる。
  現実は、途上国は穀物輸入が多く、その供給源は先進国。

  作り方の問題
  近代農業は、水の過剰消費と農薬・科学肥料による水の汚染の
  問題がある。
  手をかけることで、近代農業と同レベルの生産性をだす方法も
  できている。

  中国のファクターはやはり大きい。


【質疑】
 Q
  この問題は、人間のサイズで社会を捉えなおすことが必要になるが、
  一方で多くの人の生活を維持するには都市のシステムは不可欠だ。
  解決のイメージはおありか?
 A
  食農教育だ。
  私達は、何を頂いて生きているのか?
  田んぼの中に入ったりすると、気付くことは多い。
  都市にいながら農に触れることは、個々人の危機管理にも
  なるはずだ。

  東京の中でも分散を考えてもよいのではないか。
  多摩地域や、埼玉、千葉、神奈川に分散することは可能だろう。

  →人口減少・高齢化により、社会的な投資余力は減っていく。
   既存の社会インフラを更新するのも無理になるかもしれす、
   ある範囲の外側は、数十年後に切り離されるかもしれない。
   その現実と分散化のイメージをどう結び合わせるか?

 Q
  リカードの比較優位ではないが、自由貿易のメリットもあるはずだ。
 A
  もともと先進国のある温帯は穀物生産に適していて、
  途上国が多い地域は、エキゾチックな果物やコーヒーといった
  商品作物に適している。
  この商品作物の作り手は現地の人だが、外国資本が入っている。
  この構造にすることを途上国支援の条件にしていたこともあり
  現実は、教科書的な自由貿易になっていない。
  そして現実に農業が外貨獲得手段になってしまっている。

  身近な自然資源で持続的農業をすることに、どう転換していくか?


豊かな国が水と食糧を過剰に消費し、その食糧生産の方法は、
20世紀のオールドカルチャーのまま。
これを何も変えずに、このまま中国がもっと豊かになって
消費をもっと増やしたらどうなるか?

続けられない文明構造になっているという佐久間さんの指摘は
正しいと思う。

人の欲求を満たす方法はどんなものがあるのか。
貨幣経済、資本主義、競争という道具は、もっと使い方の可能性が
あるのではないか?
いま、それを個人としても社会としても探ることは、大切なことだと思う。

この(↑)あたりで、自分の本業+Insideoutと水・食問題が
リンクしているな。
 

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