2009年9月18日金曜日

松谷先生の授業#2(その1)


前回は、人口構造がどのように変わっていくのかを概観し、
それが何をもたらすかを考えた。
今回は「人口減少社会と大都市経営」と題して、今のままの
経済社会は成り立たず、社会の構造を変化させていく必要性を考える。

「私(松谷先生)の著作を読んで、明るい気分になる人も
 いるようだが、少子高齢化という大変化が起こるのだから、
 何もしないでいて将来が明るいわけがない
 真正面から向き合って、適正なシステムを作ることで、
 明るい未来が来るかもしれない。その前には、変化に向き合って、
 試行錯誤する大変苦労する時間がある。それが5年か、
 10年かは分からないが」という言葉から講義に入っていった。



日本経済の問題

①技術開発力の劣化

「日本の技術開発力は完全な赤信号」

技術開発力は、製品開発力(Product Innovation)と、
製造技術開発力(Process Innovation)に分けられる。
これまで日本が得意としてきたのは製造技術開発力
 例、ロボット、産業機械  それが劣化してきている。

技術開発力はどの数字に表れるか? それは貿易特化係数。

貿易特化係数=(輸出-輸入)/(輸出+輸入) であらわされ
現在に至る10年間で見ると、自動車と工作機械(工業用ロボット)では
数字は変わらないが、家電、重電、IT(半導体)、通信機器は軒並み落ちている。

それは韓国、台湾が力をつけ、中国やインドが台頭してきているからだ。
いま産業界では「ますます遠のくサムソンの背中」という言葉があるくらいだ。


②企業利益率の低下

日本企業の総資本営業利益率(ROA)は、60年代後半(65~69年)は7.3%。
それが70年代後半は5.0%、80年代後半は4.3%、90年代の不況を経て
00年代(00~07年)は3.2%と、過去に比べても、諸外国に比べても低い

なぜ儲からないのに、企業活動が続くのか?

 理由1
  アメリカは直接金融。つまり配当率(利益)が高い必要がある。
  日本は間接金融。
  優良企業ほど銀行貸出利率が低く、低利で資金調達できる。

 理由2
  労使協調によって、賃金水準が低くなっている。
  これによって個人消費が伸びないという悪影響がある。

これが、日本のビジネスモデル「薄利多売」の仕組み。

わが国の欧米先進国に比べると「普及品・汎用品」が多い。
これは、割合簡単に途上国にキャッチアップされてしまう。
だから日本企業は儲からない。
儲けるためには厳密な生産工程や品質が必要になる高級品や
専用品(高付加価値)が必要だ。

利益が少ない理由は、未熟練工でも(わりあいに)良いものが
(たくさん)作れる仕組みにある。

人のいない工場に代表されるように設備投資が大掛かりなため、
多額の資金が必要になり、そうして作った工場をフル回転して
普及品を大量生産して価格競争に巻き込まれるので、
利益が出にくい体質になる。

日本は、戦後20年で世界の工業国になった成功体験から抜け出ていない。
日本は先進国になったのに、昔のまま途上国のビジネスモデル(薄利多売)にいる。
途上国に真似できない、高級品や専用品を作る先進国型にもっていく必要がある。




「仕掛けが大きすぎる」「機械設備が多すぎる」の例

 車のドライブシャフト(エンジンの動力を車輪に伝える部品)は
 歪みの少なさが必要になるが、それを作る場合に

 日本の自動車メーカーは、レーザーを当てて直線を出し
 加熱して歪みを修正する。いずれも機械設備を使う

 フェラーリでは、親方が鉛のハンマーで、一発叩いて真っすぐにする

 仕掛けに大きな差があり、これが製造コストの差として出る。
 耐久性にも差があって、加熱しないフェラーリの製造方法のほうが
 長持ちする。


 エンジンを作る場合、シリンダーとピストンには凸凹があると困る。

 日本メーカーは、レーザーをあて、電気を使って削る。
 メルセデスは、「神の手」を持つ職人が手でなぜて凸凹を探って削る。
 それのほうが精度が高い。そして神の手を持つ人が何人もいるそうだ。


③労働力の高齢化(講義資料7ページ、13ページ)

働く人が年をとって作業効率が落ちる
→ ベルトコンベアのスピードを落とす
→ コストアップ → 途上国との競争に負けてしまう...

日本でしか作っていないものならば、コストアップ分を転嫁できるが
普及品・汎用品では、転嫁できない。

東京圏はものすごく高齢化した人口構造になるので、労働力の
高齢化は「これから大問題になる


④流通の縮小(講義資料4ページ)

 日本の流通は第3次産業の2/3と圧倒的な割合で、大きすぎる。
 日本は商品が街中に溢れていて、流通マージンが大きすぎる。

 付加価値を10とすると
 日本 製造4+流通6
 他国 製造8+流通2

 他国は売れる分だけ作るが、日本は作っただけ売る。
 機械化した生産システムによる薄利多売の宿命だ。


 日本の流通が大きくなったのは戦後のこと。

 借入金で設備を機械化し生産を拡大して、借入金を返すという
 サイクル。
 大量生産で生産コストを下げて競争力を高めるのだが、これは
 「作っただけ売る」必要があり、流通が大きくなってしまう。

 しかし、2010年代のいずれかの時点でGDPはマイナスに転じる。
 労働者数の減少に生産性の向上(主に機械化)が追い付かなく
 なるからだ。

 GDP = 労働者数 × 生産性
 ~1988 (+)   (+)
 1999~ (-)   (+)


 いま都市再開発は「面開発」になり、民間が推し進めている。
 その核は商業店舗・業務(主に流通)だ。
 将来、流通が縮小すると、民間の開発意欲は減退する。
 官にはお金が無い。
 その時のまちづくりをどうするか、考えなければならない。

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