2010年5月1日土曜日

森村泰昌展


東京都写真美術館に森村泰昌展「なにものかへのレクイエム」を
見に行ってきた。



森村といえば、名画の登場人物やモンローに扮して、より正確に言えば
成りきってセルフポートレイトを作ることを作品としてきた人だ。
現代新書の「踏みはずす美術史」を読んで知った作家で、その後も
テレビや雑誌で何度か見かけてきたけれど、いちどは直に見てみたいと
思っていた。

今回は、20世紀の歴史に深く関わった男を取り上げている。

チェ・ゲバラ、毛沢東、ヒトラー、レーニン、ガンジーといった政治家。
ピカソ、ダリ、イヴ・クライン、藤田嗣治、ヨーゼフ・ボイス、宮沢賢治、
マルセル・デュシャン、ジャクソン・ポロック、アンディ・ウォーホル、
手塚治虫、セルゲイ・エイゼンシュタイン、三島由紀夫といった芸術家達。
そしてアインシュタイン。硫黄島の兵隊達のようななもない人々...



今回は写真とビデオ作品で構成された展覧会で
「なにものかへのレクイエム」の完全版だそうだ。

なりきる過程で、過去を自らのものにしている。
そして、ポートレイトやビデオにしながら、過去の出来事を
いまにつなげていて、訴えかける力がとても強い展示だ。

写真では、アインシュタインになった「宙の夢」と、
ゲバラになりきった「遠い夢」がとくによかった。

ビデオ作品が秀逸で、とくに独裁者になりきった作品はよかった。
「独裁者になりたくありません」という言葉と、おかしな演説
(興奮したドイツ語風の駄洒落)を重ねたビデオ作品では、
21世紀の独裁者(=我々)について考えさせられる。

同時に、森村の演技力にも驚いた。ほんとびっくり!
表情と声の作り方、姿勢や仕草のコントロールは役者そのもの。
この技術は名画になりきるための観察で培った力なんだろう。

美術といえば西洋名画。それからアメリカ文化に扮してきた。
女性に扮することでモノの見方にもぶつかってみた。
そして、いま三島を入口に20世紀と日本を考える森村の軌跡、
個人の芸術活動そのものが、日本人の来し方行く末(和魂洋才→
世界大戦→アメリカ→暗黒の20年→アジアの勃興)に重なるようで、
だから見ていて面白いんだろうな~



「烈火の季節/なにものかへのレクイエム(MISHIMA)」の様子

「静聴せよ、静聴せよ、静聴せよと言っているんだ!」
の言葉で始まるビデオ作品が2階と3階を結ぶホールで上映されている。
1970年11月25日の市谷駐屯地での三島由紀夫の演説を下敷きにしたもので
たぶん大阪城公園を舞台にしたんだろうね。
「自分を否定する現代の日本の流行り廃りに、どうしてそんなに
 ペコペコするんだ(怒)」と訴え
「永遠の芸術、万歳!」と叫ぶ。



帰宅して、三島由紀夫の演説風景を見てみた。
なるほど、演説の特徴をよく捉えつつ、自分のメッセージにしている。
このあたりの視点の置き方がモノマネ芸と芸術作品との違いなんだろう。

9日まで写真美術館で展示した後は、豊田市美術館、広島市現代美術館、
兵庫県立美術館を巡回するそうだ。
いいことだね。多くの人に見てほしい展覧会だな。
 

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